日本には4社の通信キャリアが存在しています。
新規参入の楽天モバイルは巨大な赤字を計上していますので別にして、他の3大キャリア(ドコモ・au・ソフトバンク)では、官製値下げと言われた国のプラン料金値下げ要請に対して、横並びの従来からあるメインプランとは別に、安価に利用できるプランを発表した事により収益低下を招きましたが、国際会計基準に則った2024年3月期連結業績予想では、3社とも実質的に営業増益になることを発表しています。
このところの電気代値上げや半導体不足による部品代の高騰、それ以外の諸物価が高くなる状況を考えれば、各社とも従来のプランだけの継続運営では営業増益になる要素が少なく、できれば月額料金の値上げをしたいのが本音だと言えます。
しかし、ユーザーとの契約であるプランの値上げは現実的では無く、単純な月額料金の値上げは、おおよそ受け入れられずに顧客の流出に繋がる事も想像に難くありません。
そこで通信各社は、相次いで既存プランの刷新を行っています。
ドコモは従来の「ギガホプレミアプラン」「ギガライトプラン」を廃止して、2023年7月から「eximo」「irumo」をスタートさせています。
auではサブブランドの「UQモバイル」のプラン内容を、2023年6月から大幅な改訂リニューアルを行っています。
ソフトバンクでも、サブブランドの「ワイモバイル」のプランを、2023年10月以降は新プランをスタートさせる事を発表しています。
これらのプラン改定で、安価に利用ができる「irumo」「UQモバイル」「ワイモバイル」を考察比較して、お得に利用する方法も解説していきます。
「irumo」「UQモバイル」「ワイモバイル」の新プランを考察
各社から登場している新プランを、新旧の比較を交えて考察してみましょう。
irumo(ドコモ)
3大キャリアでドコモが他の2社と明快に異なるのは、メインプランよりも安価に利用ができるサブブランドの有無です。
irumo誕生の背景
サブブランドは、それほどデータ通信を行っていないユーザーが、メインプランの月額料金の高額さに閉口して乗り換えを考えた場合の対処として、「他の通信会社に流出させるくらいなら、安価に設定した月額料金のサブブランドで自社内で継続利用してもらおう」という通信会社の顧客を繋ぎ止める手段です。
auではサブブランドとして「UQモバイル」・ソフトバンクでは「ワイモバイル」があり、これらが有効に機能して契約者を自社内に留め置く役割を果たしています。
それに対して、ドコモでは一貫してサブブランドを持たず、安価なプランとしては格安SIMの3社を「エコノミーMVNO」として、全国のドコモショップで取り扱ってきました。
転機になったのは、エコノミーMVNOの一つである「OCNモバイルONE」を運営していた、同じグループのNTTレゾナントをドコモが2023年7月に吸収合併した事です。
それを機に格安SIMのOCNモバイルONEは新規募集を停止して、同時期に従来のドコモプランの募集も停止して、新プランの「eximo」「irumo」を発表しました。
「eximo」が従来からあったドコモのメインプランを集約したプランであるのに対して、「irumo」はOCNモバイルONEの特徴を色濃く残したプランだと言えます。
しかし、格安SIMのOCNモバイルONEとは異なり、通常のドコモプランである「irumo」は、相応の値上げが行われている事も確かです。
irumoの月額料金
irumo | ||||
容量 | 0.5GB | 3GB | 6GB | 9GB |
基本月額料金 | 550円 | 2,167円 | 2,827円 | 3,377円 |
以前のOCNモバイルONEの料金体系と比較して、10GBの最大容量が9GBに減少して、1GBの区分が無くなり、月額料金は大幅に値上がりしています。
既に新規募集を停止している、OCNモバイルONEのプランをあらためて見てみましょう。
OCNモバイルONE | |||||
容量 | 0.5GB | 1GB | 3GB | 6GB | 10GB |
基本月額料金 | 550円 | 770円 | 990円 | 1,320円 | 1,760円 |
ドコモ回線の一部を利用する格安SIMのOCNモバイルONEと、ドコモ回線を全て利用する「irumo」を同格に扱う事に無理がありますが、それでもたとえば同じ3GBのデータ容量で比較した場合、990円から2,167円への大幅値上げになります。
しかし、ドコモの旧小容量プラン「ギガライトプラン」で3GB利用のステップ2では、月額料金が4,565円だったため、比較すれば大幅に安くなっているとも言えます。
その引き換えに、「irumo」では家族間の無料通話が無くなり家族割の適用も無くなります。
ドコモメールを利用するには、別途330円の月額費用がかかります。
OCNモバイルONEの特徴の一つだった、殆どネット利用をしないユーザー向けの0.5GBプランは、新プランの「irumo」でも据え置きの月額料金で提供されています。
しかし、OCNモバイルONEでは存在した毎月10分までの無料通話は「irumo」では無くなり、利用できる電波に5Gは無く、通信速度の制限も存在するという意味では、実質の値上げとも言えます。
UQモバイル
UQモバイルでは、メインプランのauよりも安価な月額料金で、シンプルな容量別のプランを提供してきました。
しかし、2023年6月以降の新プランでは、内容を大幅に変更してきています。
UQモバイル新プラン誕生の背景
官製値下げと言われる中心プランは、ドコモのオンライン専用プラン「ahamo」でスタートした、月に20GBのプランで月額料金3,000円(税抜)程度が基準になり、ソフトバンクでは現在の「LINEMO」・KDDIでは「povo」という横並びのプラン内容で追従しました。
しかし、povoは新たにpovo2.0へと変貌を遂げて、従来には無かった必要な時だけデータ容量を購入する、トッピングという概念をプランに持ち込み、当初の20GB容量で月額3,000円とは大きく異なるプランに変わりました。
そのため、ahamo・LINEMOと直接対峙するプランの存在がau陣営には無くなったため、その役割を「UQモバイル」に担わせる事が、今回の新プランでのトピックになっています。
UQモバイルの新プラン月額料金
現行新プラン | ||||
トクトクプラン | コミコミプラン | ミニミニプラン | ||
1GB未満 | 15GB | 20GB | 4GB | |
基本月額料金 | 2,277円 | 3,465円 | 3,278円 | 2,365円 |
旧来のプランでは3GB・15GB・25GBのシンプルな容量別だった事を考えれば、新プランでは随分複雑になっています。
最大容量も25GBから20GBに減っていて、20GB以上利用するユーザーは、auの無制限プランにどうぞ!というスタンスを明確にしています。
既に新規募集を停止している、UQモバイルの旧プランをあらためて見てみましょう。
旧プラン | |||
繰り越しプラン+5G | |||
3GB | 15GB | 25GB | |
基本月額料金 | 1,628円 | 2,728円 | 3,828円 |
シンプルな旧プランと比較すれば、新プランは解りにくいので、簡単にプラン別の解説をします。
トクトクプラン
上限15GBのプランで、旧プランで同様の15GBプランは2,728円が新プランでは3,465円になったので、実質的な値上げとも言えます。
従来の15GBプランと異なるのは、月の利用量が1GB未満の場合には自動的に1,188円の割引きが受けられ、2,277円の月額料金で利用が可能になっているところです。
それほどデータ消費をしないユーザー(月に1GB以下)には、価格メリットがありますが、1GBに達すると月額料金は3,465円になり、後述のミニミニプラン(4GBまで 月額2,365円)の方が安くなります。
コミコミプラン
一見すると上限20GBのプランですが、中身はスタート時のpovoと酷似しています。
ライバル他社のオンライン専用プラン「ahamo」「LINEMO」に直接対抗するのが、新プランのコミコミプランだと言えます。
他社と比較した時のアドバンテージとしては、国内通話5分かけ放題が基準になっているのに対して、コミコミプランでは10分かけ放題になっています。
特定の光回線などと組みあわせて割引きが受けられる「セット割」などの、各種割引制度が利用できないオンライン専用プランの特性は、このコミコミプランでも同様ですが、他社ではショップ店舗利用の契約やフォローが受けられないのに対して、コミコミプランはUQモバイルの店舗が利用できるのもメリットの一つです。
ミニミニプラン
最小容量のプランで、旧プランでは3GBだった容量が、新プランでは4GBになり月額料金は値上がりしています。
1GBあたりの料金を計算すると、旧プランは542円/1GBに対して、新プランは591円/1GBですから、容量増加以上の値上げとも言えます。
ワイモバイル
(出典: ワイモバイル公式 )
ワイモバイルは、ソフトバンクのサブブランドとして安価なプランを提供してきました。
ワイモバイルでも2023年8月下旬になって、従来の「シンプル S/M/L」に変わる新プランの「シンプル2 S/M/L」へ、2023年の10月以降の以降のスタートを発表しています。
ワイモバイル新プラン誕生の背景
他の新プランとは異なり、現状は従来のプランも契約ができるため、ワイモバイルの契約を考えているユーザーは、新プランとの違いを見極める必要があります。
ワイモバイルの新プランは、一言でまとめるとデータ量が増量されると共に値上げされるという事になります。
具体的に新プランの月額料金を見てみましょう。
ワイモバイルの新プラン月額料金
新プラン シンプル2 | |||
プラン名 | S | M | L |
容量 | 4GB | 20GB | 30GB |
基本月額料金 | 2,365円 | 40,145円 | 5,115円 |
新プランでもシンプルな容量別なのは変わらず、現状のプランと比較してデータ量が増加しています。
現状のプランを見てみましょう。
従来プラン シンプル | |||
プラン名 | S | M | L |
容量 | 3GB | 15GB | 25GB |
基本月額料金 | 2,178円 | 3,278円 | 4,158円 |
たとえば、現状プランの3GBは2,178円がですが、新プランでは4GBで2,365円になっていますので、現状プランでは1GB/726円ですが、新プランでは1GB/591円で実質値下になっています。
3GB以上は利用しないユーザーなら、現状プランの方が絶対額は安くなりますが、3GBではちょっと足らない事が多いユーザーには、割安に1GBをプラスした4GBが使えると言えます。
しかし、プランLでは話が異なってきます。
現状では25GBが4,158円、新プランでは30GBが5,115円ですから、1GBあたりの単価を比較すると、現状プランが166円/1GBで、新プランが170円/1GBになり割高になります。
「irumo」「UQモバイル」「ワイモバイル」は自宅のインターネット回線との「セット割」が前提
メインプランに対して安価に利用ができる、「irumo」「UQモバイル」「ワイモバイル」という新プランの月額料金が出揃いました。
ここまで見てきた価格体系を見て、「意外と高いんだな」と感じた方は、現状のスマホプランに3大キャリアを使っていて、自宅にセット割が適用されるインターネット回線を使っているケースが多いと考察できます。
スマホプランの長期継続利用に繋がっていた、「2年縛り」とそれに伴う「違約金」・自社購入の端末は自社以外では利用ができない「SIMロック」の手段は、国の法改正により現在は適用する事ができなくなっています。
それに変わって安定的にユーザーに長期間利用してもらう手段として、比較的長い期間の利用になる自宅のインターネット回線契約に3大キャリア各社は注目して、自宅のインターネット回線とスマホプランを併用することで、毎月のスマホ代が家族の分まで全て割引きが受けられる「セット割」の拡充に余念がありません。
また、ユーザーを囲い込む新たな手段として、自社系列のクレジットカードでの支払いの場合、加えて割り引く制度を導入しています。(支払いにつき187円の割引きで横並び)
「irumo」「UQモバイル」「ワイモバイル」は、自宅のインターネット回線と組みあわせて「セット割」を利用する前提になっていると言えます。
お得に利用するためには、自宅にインターネット回線を併用する必要がありますが、これは通信キャリアの都合だけとは言えず、ユーザーにとってもメリットが大きく、利用しない手はありません。
その理由をご説明しましょう。
インターネットのデータ利用は増加傾向
(出典:総務省)
このグラフは、2023年8月に総務省が発表している。2023年5月のインターネットの通信量です。
インターネットを利用するデータ量は、グラフを見ても一目で解るように右肩上がりで増加しています。
このインターネット回線提供社のデータから計算する、一回線あたりの利用データ量は概ね200GB程度になっていて、最新の国勢調査の世帯人数で割れば、一人あたりが1ヵ月に利用しているデータ量は90GB程度になります。
インターネットを利用する端末は、スマートフォンが圧倒的に多くなっています。
(出典:総務省)
このデータ量をスマホプランだけで賄うためには、無制限プランを契約するしかありませんが、最もデータを消費する自宅のインターネット利用を、別回線を入れて家族で共用する手段を講じるユーザーが多くなっています。
自宅のインターネット回線+小容量プランのコスパが良い
新しい回線を導入すれば月額料金が新たに発生しますが、複数の家族で利用する事で一本化したインターネット回線は、一人あたりにすれば思ったよりも割高にならず、スマホプランは外出時に利用するデータ量だけを確保すれば良くなり、多くのスマホユーザーは安価な小容量プランで事足ります。
スマホの契約を小容量プランにすることで、スマホ代の月額は大幅に抑える事が可能で、新たな出費になる自宅の回線を加えても、トータルの通信費用は安くなります。
実際に小容量プランで大丈夫か?と心配になる方も多いと思います。
しかし、統計データから見ても外出時だけに限れば、スマホプランで大きなデータ量は消費していません。
(出典:MM総研)
このグラフは、2023年3月1日に株式会社MM総研が調査した、「携帯電話の月額利用料金とサービス利用実態(2023年1月調査)」です。
自宅で別回線を使ったWi-Fi利用はこのデータには含まれず、純粋に契約しているスマホプランのギガ消費量だけを表しています。
多くのスマホユーザーが月に3GB未満の利用に留まっており、最も多いのは1GB未満の利用者層です。
そのため、自宅に光回線が導入されれば、多くのスマホユーザーに最適なプラン容量は3GB程度でOKという事になります。
自宅のインターネット回線に最適なのは?
自宅でWi-Fiが利用できるための回線として、「光回線」「ホームルーター」「モバイルルーター」の3通りが考えられますが、家族でサクサク利用するためには、安定して高速で速く無制限に利用できる光回線がオススメです。
実際の利用者が回線速度を計測している「みんなのネット回線速度」で、直近3ヵ月の回線速度の平均を回線ごとに比較すれば、光回線が安定して速い傾向にあるのは明らかです。
回線 | Ping | 下り | 上り |
光回線 | 27.2ms | 378.1Mbps | 349.7Mbps |
ホームルーター | 81.4ms | 144.6Mbps | 18.6Mbps |
モバイルルーター | 86.0ms | 56.1Mbps | 13.2Mbps |
*Ping値は反応速度で数値が小さいほどレスポンスが良く、下り(ダウンロード速度)上り(アップロード速度)は数値が大きいほど速くなります
各プランで「セット割」適用の光回線を導入して、家族3人で月に3GBが利用できるプランを使うケースで、通信費トータル費用を計算して比較してみましょう。
家族3人プラン別「セット割」適用後の通信費トータル費用を比較
自宅にセット割が適用される光回線+セット割が適用される3GB程度が利用できるプラン×家族3人分=通信費トータル費用 を、プラン事に計算します。
特定の系列クレジットカードで支払いをすると、一回の支払いにつき187円の割引きが受けられるのは共通です。
irumo
irumoのセット割後の月額料金
irumo | ||||
容量 | 0.5GB | 3GB | 6GB | 9GB |
基本月額 | 550円 | 2,167円 | 2,827円 | 3,377円 |
セット割 | 0円 | 1,100円 | 1,100円 | 1,100円 |
割引き後月額 | 550円 | 1,067円 | 1,727円 | 2,277円 |
0.5GBプランでは「セット割」の適用は無く、dカードの支払い割引きも適用されません。
セット割後の価格は、新規募集を停止したOCNモバイルONEでセット割の適用時の価格にグッと近づきます。
3GBでOCNモバイルONEのセット割後770円→irumoのセット割後1,067円
6GBでOCNモバイルONEのセット割後1,100円→irumoのセット割後1,727円
格安SIMのOCNモバイルONEから、ドコモの回線を全て利用できるキャリア回線になった事による価格上昇と考えれば、納得のいく範疇になりますね。