厚生労働省は、令和3年3月にテレワークガイドラインを改定するなど、日本中の企業に対して在宅勤務の推進を促しています。
コロナ禍の以前から、働き方改革の一環として進めてきたこの政策は、以前は遅々として進まなかったのですが、皮肉なことに新たな日常・新たな生活様式を意識する中で、飛躍的に採用する企業が増えました。
厚生労働省の定義では、テレワークの働き方の一つが「在宅勤務」で、他には自宅近くや通勤途中の場所に設けられた「サテライトオフィス勤務」・自由に働く場所を選択出来る「モバイル勤務」があるとされています。
テレワークとリモートワークの違いに、明確な定義はありません。
一般的には大企業や省庁の業務はテレワーク・IT企業など自由度の高い職種ではリモートワークが多く使われています。
NTTグループは、日本中どこに住んでもOKな新制度「リモートスタンダード制度」を、2022年7月1日から導入すると発表しました。
勤務場所が自宅になり、出社時の交通費は飛行機の利用を含めて全額支給される事が、大きなニュースになりました。
リモートワークを可能にしたのは、ペーパレスがあります。
ペーパレスは紙媒体を電子化して電子活用や電子保存する事を指して、「ペーパーレス」や「ペーパレス化」という表現でしばしば用いられます。
リモートワークに限らず、必要な書類が手元に無いと仕事は進みません。その都度出社していては、在宅勤務は成り立ちません。
しかしそれ以前に、リモートワークが成り立つのは、インターネット回線の進歩です。
自宅にいても、大きなデータが社内にいるのと同様に利用が出来て、離れている仲間や商談相手と、web会議システムでミーティングが行えるのは、高速回線の普及があります。
リモートワークに不可欠なインターネット回線は、今後も増えていく在宅勤務の中で、業務効率や快適性の実現において、大きな要因になります。
リモートワークに適したインターネット回線を解説します。
インターネット回線には何がある?
インターネットを利用するのに最も手軽で簡単なのは、スマートフォンです。
しかし、リモートワークをこなすのには、パソコンを利用する事が前提になっていて、大容量のデータを扱う事などを考慮すれば、テザリングでスマホを基地局として利用する方法も難しいと言えます。
auやソフトバンクのメインプランである無制限を契約していても、テザリングは無制限ではなく、30GBまでに制限がされています。
スマホのテザリングは、一日に利用するデータ量によっては、仕事の途中で制限が掛かる可能性もあり、実用的ではありません。
スマホでテザリングをする以外の、主なインターネット回線としては、「モバイルルーター」「ホームルーター」「光回線」があります。
モバイルルーターでリモートワーク
「モバイルルーター」は、バッテリー駆動で小型コンパクトに設計されているため、自宅のリモートワークだけでなく、外出時には持ち運べるWi-Fi基地局になります。
回線工事も必要無く、気軽に利用出来るのが大きなメリットです。
単身者がワンルームで利用する使い方が主で、家族で利用する回線手段としては向いていません。
リモートワーク用のモバイルルーターの選び方
リモートワークでのモバイルルーターの利用は、無制限か月に100GB程度のプランを契約する必要が有ります。
無制限で利用出来るモバイルルーターとして、WiMAX系がありますが、契約プランによって3日間で10GB・15GBの容量制限があり、利用の仕方によってはリモートワークに支障が出てくる可能性があります。
楽天モバイルも無制限ですが、楽天回線が利用出来るエリアに限られ、それ以外では月に5GBの制限があるため、仕事で利用するためには色々な条件が揃っている必要が有ります。
利用の仕方を問わず、月に100GBの容量を自由に利用出来る「クイックWiFi」は、比較的モバイルルーターの中でリモートワークに適した回線だと言えます。
(出典:クイックWiFi公式)
リモートワークにモバイルルーターは使えるか?
しかし、モバイルルーター全般に言えるのは、回線品質や速度・安定感において、プライベートの利用には支障が無いものの、仕事で利用するリモートワークには力不足で、積極的にオススメしません。
ホームルーターでリモートワーク
工事不要、コンセントを挿すだけで、自宅にWi-Fi環境を構築出来るのが、「ホームルーター」です。
ドコモは「ドコモ home 5G HR01」・KDDI(au)は「Speed Wi-Fi HOME 5G L12」・ソフトバンクは「ソフトバンクエアー 」のサービスが、それぞれ提供されています。
同じ無線を使うインターネット回線ですが、モバイルルーターよりもホームルーターは筐体サイズが大きく設計の自由度があるため、大きなサイズのアンテナが使える事で回線速度が早く、Wi-Fiが利用出来る範囲も広がります。
有線のLANポートも備えられていて、より安定した環境でリモートワークを行う事が出来ます。
リモートワーク用のホームルーターの選び方
「Speed Wi-Fi HOME 5G L12」はWiMAX系のため、直近3日間で15GB以上利用した場合に、通信制限が掛かります。また、WiMAX系の回線が利用出来ないエリアでは、月に15GBの容量制限が有ります。
ドコモとソフトバンクでは、基本的に無制限に利用出来る事を謳っています。
しかし無線回線である以上、完全な無制限利用とはいきません。
たとえばドコモの場合、以下の様な注意書きが掲載されています。
“ネットワークの混雑状況により、通信が遅くなる、または接続しづらくなることがあります。また、当日を含む直近3日間のデータ利用量が特に多いお客さまは、それ以外のお客さまと比べて通信が遅くなることがあります。なお、一定時間内または1接続で大量のデータ通信があった場合、長時間接続した場合、一定時間内に連続で接続した場合は、その通信が中断されることがあります。”
リモートワークにホームルーターは使えるか?
導入工事が出来ないなど、光回線の利用に支障が有る環境では、リモートワークに最適なインターネット回線だと言えます。
しかし、通信速度や安定感などは、最新の5Gを利用する場合でも、現状は光回線に遠く及びません。
無線回線特有の容量制限に引っかかるリスクが常にあり、その意味ではリモートワークに最適だとは言えません。
特に、zoomなどweb会議では、安定した大容量をこなせる回線環境が必要です。
コロナ禍初期の頃、テレビで見たパネラーやコメンテーターが複数名写っている中で、1人だけ画像が停止したままになっている人を、結構な頻度で見かけました。
時間が経過して、コロナ禍が収束してくる時期になると、そのようなパターンを殆ど見なくなりました。
これは、当初無線回線をインターネット利用していた出演者が、光回線に移行した事に外なりません。
光回線でリモートワーク
光ファイバーケーブルという有線で、インターネットを利用する「光回線」は、環境などによるロスが少なく、最も回線速度が速く安定した環境を享受出来る回線です。
リモートワーク用の光回線の選び方
光回線は実際に光回線を自宅まで引き込む必要が有り、提供されるエリアはサービスによって異なってきます。
提供エリアは、サービスを提供している会社のHPに掲載されています。
提供エリアになっていない光回線は、利用する事が出来ません。
また、マンション集合住宅では、共有スペースまで引き込まれている回線しか、現実的には利用する事が出来ません。
全国展開している光回線サービスでも、日本全国全てのカバーはされてはいません。
auひかり
NURO光
(出典:NURO公式)
フレッツ光
日本全国を最も広くカバーしているのが、NTT東西が敷設した「フレッツ光」回線です。
フレッツ光なら、多くのエリアや建物で利用する事が可能です。
リモートワークに光回線は使えるか?
現在考えられるインターネット回線の中で、リモートワークに最も適しているのが「光回線」です。
無線回線とは異なり、無制限に利用出来るだけでなく、通信速度や回線品質が最も高く安定しています。
大量の大容量ファイルを、会社のメインサーバーからダウンロードして使ったり、web会議を行ったり、それらを夫婦共働きや2世帯住宅での同時利用でも、テレワークに必要なインターネット環境を、光回線なら充分に実現する事が可能です。
では、リモートワークに必要な回線速度を、具体的に検証してみましょう。
リモートワークに必要な回線速度
回線速度が速くても、邪魔になることはありません。
通常のプライベート利用に比較して、ビジネスであるが故に、ワンランク上の通信品質がリモートワークには必要です。
速度の単位
通信速度の単位は「bps」という単位を使い、数値が大きくなるほど高速になります。
bpsはBit per secondを略したもので、1秒間にどれだけのデータ量を転送出来るかという意味です。
1,000bpsは1kbpsであり、1,000kbpsが1Mbpsになり、1,000Mbpsは1Gbpsになります。
アップロードとダウンロード
インターネット回線には、上り(アップロード)と下り(ダウンロード)があります。
この二つの速度は必ずしも同じでは無く、基本的には異なっています。
一般的なインターネット利用では、動画視聴やウェブ閲覧など、ダウンロードが重要になります。
下り速度が充分に出ている事が、快適なインターネット利用に大きな影響を及ぼします。
しかし、リモートワークでは、上りも快適利用の重要な要素になります。
たとえば、web会議を利用する時に、自分の顔や音声を参加者に届けるのには、上りの通信速度が大きく影響してきます。ミーティング中に、手元の資料を使って参加者に説明する状況も同様です。
下り速度は、充分に各サービスとも考えられていても、上り速度が足りないケースが多く、アップロード速度が不充分な場合、音声が参加者に聞こえなくなったり、説明途中の資料が、同じページだけを表示し続けられたりする事態を招きます。
ダウンロード速度が足りていないケースでは、相手の音声や画像が途切れたり固まったりします。
web会議以外では、業務効率に速度が影響します。
速度が倍なら、ダウンロード・アップロードが完了するまでの時間が半分で済みます。
web会議での快適な利用には、上り下りとも50Mbps以上が必要です。
夫婦二人で同時利用する可能性があるなら、100Mbps以上が欲しいです。
Ping値
インターネットの反応速度を示す値で、レイテンシとも表現されます。
単位はmsで、ミリ秒の意味です。
この数値が小さければ小さいほど、インターネットの反応速度は俊敏だと言えます。
通常のwebサイト閲覧などでは、基本的に100ms程度でも問題ありません。
リモートワークでは、Ping値が一番絡んでくるのは、やはりweb会議です。
ストレス無く利用出来る反応速度としては、最低でも50msは欲しいところです。
公称値
インターネットの通信速度は、サービスを提供する回線事業者が、それぞれ数値として発表していますが、これは公称値と呼ばれる計算上の理論値です。
この数値は、利用する中で速度計測しても基本的には出ません。
実際の利用者が計測している「みんなのネット回線速度」が、参考になります。
それぞれの回線で、代表的なサービスにおいて、実際の通信速度を見ていきましょう。
回線の違いによる回線速度の違い
Rakuten WiFi Pocketの通信速度レポート「モバイルWi-Fiルーター」
(出典:楽天モバイル公式)
直近3ヶ月に計測された940件のRakuten WiFi Pocketの測定結果から平均値は
平均Ping値: 53.69ms
平均ダウンロード速度: 26.42Mbps
平均アップロード速度: 21.76Mbps
です。
一般的なインターネット利用には問題が無くても、リモートワークでは不足している速度である事が明らかです。
ソフトバンクエアーの通信速度レポート「据え置き型無線ホームルーター」
(出典:ソフトバンクエアー申込サイト)
直近3ヶ月に計測された12,098件のソフトバンクエアーの測定結果から平均値は
平均Ping値: 45.38ms
平均ダウンロード速度: 79.0Mbps
平均アップロード速度: 8.21Mbps
です。
リモートワークの利用には、アップロード速度が不足しています。
ダウンロードは充分な速度が出ているため、通常のインターネット利用には問題が有りませんが、web会議の快適利用には無理があります。
フレッツ光ネクストの通信速度レポート 「光回線」
(出典:フレッツ光申込サイト)
直近3ヶ月に計測された56,218件のフレッツ光ネクストの測定結果から平均値は
平均Ping値: 20.43ms
平均ダウンロード速度: 280.87Mbps
平均アップロード速度: 212.74Mbps
です。
レスポンスのPing値も、ダウンロード速度・アップロード速度も共に、リモートワークをこなすのに充分な数値が出ています。
この数値の差が、リモートワークには「光回線」をオススメする理由です。
リモートワークの光回線には「フレッツ光」がオススメの理由
リモートワークの光回線には、フレッツ光をオススメする理由があります。
そのポイントは、光回線導入には不可欠の回線工事です。
広いエリアで利用出来る
先述のように、日本中の幅広いエリアでフレッツ光は利用する事が出来ます。
地域によっては、利用出来る唯一の光回線になっているケースもあります。
リモートワークの広がりは、従来からあった都心への人の動きとは逆で、自由に働ける環境下では、日本中に職場が広がっていくとも言えます。
多くのマンション集合住宅にも、フレッツ光は既に数多く共有スペースまで導入が完了しています。マンション集合住宅では、共有スペースまで入っている光回線しか利用する事が出来ません。これは都心部や地方を問いません。
工事期間が短い
光回線の利用には、基本的に回線導入工事が必要です。
回線利用の申込みをしてから、工事を完了して光回線が開通するまでには、一定の期間が必要になります。
リモートワークで光回線が必要な場合、その期間は短いに越したことはありません。
人の移動が多い3月から4月の期間などの繁忙期では、通常の期間よりも長くなる傾向になり、回線の種類やエリアによっては開通までに数か月から半年以上掛かるケースも有ります。
「フレッツ光」は、概ね申込みから開通するまでの期間として、2週間から1ヵ月程度で、
これは他回線と比較して、多くの場合で短い期間で完了しています。
フレッツ光を管理するNTT東西は、実際に作業を行う工事業者との付き合いが古く、多くを確保している事がまず挙げられます。
また、「NURO光」では全部・「auひかり」でも多くの部分で、NTTが敷設した「フレッツ光」のダークファイバー(NTT東西が利用していない部分のこと)を提供しているため、重なった場合には、他社よりも自社サービスを優先する事は明確であり、社内調整もスムーズに進みます。
他社と比較して工事までの期間が短いのは、光回線工事のスケジュール管理における主導権を、NTT側が持っている事にあります。
無派遣工事で完了する可能性
光回線の工事には、「無派遣工事」と「派遣工事」が有り、「派遣工事」には「無派遣工事」の内容も含まれています。
簡単に光回線の工事内容を見ていきましょう。
一戸建て
(出典:NTT東日本 一部改変)
マンション集合住宅
(出典:NTT東日本 一部改変)
無派遣工事とは?
光回線を利用する設備が既に整っている場合は、派遣工事が必要無く光回線が開通出来るケースが有ります。
その場合、工事業者が現場まで出向いて工事を行わずに、NTTの局舎内だけで光回線の工事が完了します。
工事が簡単に完了するため、工事費は安くなります。
申込みから利用出来るまでの期間も、短くなるメリットが有ります。
いち早くリモートワークに光回線が必要な場合、無派遣工事で完了出来れば、大幅に開通までの期間を短く出来る可能性があります。
期間だけでなく、費用面でもメリットが有ります。
無派遣工事の具体的な工事費は、回線サービスによって異なりますが、2,200円程度から数千円の範囲です。
それに対して、派遣工事はマンションで16,500円程度からで、戸建てでは19,800円程度で、フレッツ光以外の光回線では更に高額になります。
光コンセントが有れば無派遣工事でOKの可能性
実際に無派遣工事で光回線が開通出来るかどうかは、申し込んでみるまで解りません。
事前に目安になるのが、光コンセントです。
(出典:SoftBank公式ページ*一部改変しています)
部屋に光コンセントが存在している場合、無派遣工事で完了出来る確率が高くなります。
無派遣工事が可能なのはフレッツ光だけ
フレッツ光以外の、「auひかり」「NURO光」や、地元エリア限定の電力会社が運営するタイプ・ケーブルテレビ会社が運営する光回線では、「無派遣工事」で完了する事は無く、必ず「派遣工事」が必要です。
無派遣工事が可能なのは