昭和の時代までは、通信の全てがシンプルでした。
通信手段といえば基本的に固定電話だけで、外出時には公衆電話を利用する事に限られていました。
回線は電電公社の独占事業で、加入のためには一律になっている費用を支払い、通話利用料金も基本的なことは選択の余地無く決められていて、特に何も考える必要無く利用が出来ました。
料金を節約するための手段としては、通話時間を短く済ませるか、遠距離電話を通話料が割安になる夜の8時以降にする程度です。
公衆電話のテレホンカード利用が普及すると、1,000円のテレホンカードを、金券ショップを覗いて960円で購入する事が、節約出来る関の山でした。
現在の通信環境は、当時と比べて激変しています。
古くは固定電話の回線が選べるマイラインから始まって、複雑怪奇な契約システムの携帯電話(今はシンプルなタイプも出てきましたが)、光回線などなど解りにくくなっている反面、昭和時代には考えられなかった高度なことが、とても安価に出来る様になっています。
しかし、その解りにくさに付け込む輩には注意が必要です。
2022年4月26日に、国民生活センターが注意喚起をしています。2024年1月から順次、固定電話のIP網への移行される予定になっていますが、その情報を掲載する新聞雑誌記事から意図的に部分だけ切り取って、「固定電話は今後利用出来なくなります」と語ります。
必要の無い、利用している電話機の買い換えや、光回線の導入工事に誘導するなど、卑劣な詐欺行為が後を絶ちません。
固定電話のIP網への移行に際しては、既存のメタルケーブル(電話回線)を継続利用するので、利用者側の工事は一切発生せず、必要もありません。当然、利用している電話機も継続使用が可能
になっていることをお伝えします。
以前から、インターネット回線と電話回線は親和性が高く、ワンセットで捉える方も多いです。そこにはネットの歴史が関係しています。
インターネット回線契約に、電話回線が必要なのか?解説いたします。
インターネット回線の時代による推移
インターネット回線は、時代と共に進化してきました。
出来る事の基本は、利用端末から離れたところにあるサーバーにネットワーク接続して、データを相互にやり取りする事は変わっていませんが、端末の進歩による処理能力の大幅な向上と、回線速度の向上によって、現在では利用方法が無限に広がっています。
簡単にインターネット回線の進歩歴史を見てみましょう。
アナログモデム期
まず、現代のインターネット回線を見てみましょう。
(出典:NTT東日本)
これは、NTT東日本の図を利用しているので、自宅からプロバイダまでの回線は、NTTの光回線「フレッツ光」を使っています。プロバイダから先のインターネットの世界への接続には、バックボーンと呼ばれる回線に繋がっています。
インターネット創生期
1990年頃に広がり始めたインターネットは、アメリカの軍事用として開発してきた回線を、民間に解放されたことに始まります。
当時は光回線など他の回線手段は無かったので、広く一般的に利用出来る回線は電話回線に限られていました。そこで、プロバイダまでのインターネット回線として、電話回線が利用されました。
電話回線は音声をやり取りするアナログ回線ですので、デジタル機器をそのまま利用する事は出来ません。
パソコン通信とインターネットの違い
インターネットが登場する以前から、電話線を利用したパソコン通信は一部の愛好家の間で行われていました。
アナログモデムと言う機器をパソコンと電話回線の間に繋げて、デジタルとアナログの信号変換を行い、データのやり取りが行われていました。
インターネットとパソコン通信が決定的に異なるのは、開放性と閉鎖性です。
パソコン通信を先の図に当てはめた場合、プロバイダの位置にあるのが「ニフティサーブ」「PC-VAN」などのパソコン通信運営企業のサーバーで、そこで基本的には完結です。
パソコン通信の会員は、それぞれのパソコンから特定のサーバーに接続するので、そのサーバーを介して全てのやり取りが行われます。
インターネットでは特定のサーバーに限らず、世界中のサーバーにアクセスが出来ます。
この頃のイメージが有る、知識がある方なら、インターネットの利用には電話回線が必要だと認識している事が有るかもしれません。
当時の回線速度
パソコン通信だけの時代は、2,400Mbpsから9,600Mbpsの通信速度で事足りていましたが、インターネットを利用するようになると28,800Mbps・33,800Mbpsへと、アナログモデムの性能は大幅に進化しました。
デジタル回線登場期
アナログ回線を利用したデジタル変換では、通信速度に限界が有ることを認識していた電電公社では、1975年には光ファイバーケーブルの基礎研究を始めています。
光回線の産声
1978年には唐ヶ崎─浜町間の、商用レベルでの現場実験に成功しています。
日本全国に広げる、日本縦貫光ファイバーケーブル伝送路が旭川─鹿児島間で構想されて、後の加入者光ファイバーケーブルの開発に繋がっています。
1984年には、加入者光ファイバーケーブルとして最初の試み、「FTTHトライアル」が実施されています。
しかし、価格面と接続性の問題から、一気の光回線普及には至っていません。
ISDN
光回線の前に、デジタル化を推進したのが「ISDN」です。ISDNはIntegrated Services Digital Networkの略で、和訳すればサービス総合デジタル網になります。
これは、交換機・中継回線・加入者線まで全てデジタル化された、パケット通信・回線交換データ通信にも利用できる公衆交換電話網の事です。
ISDNは1972年にITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector、国際電気通信連合電気通信標準化部門)のジュネーブ総会において、基本理念が発表されています。
1985年に富士通製のデジタル電話交換機を使い、シンガポールで世界初の実環境試験がスタートした後に一気に普及が進み、2001年頃にピークを迎えています。
アナログモデムに変わって、ターミナルアダプターを設置することにより、従来の電話線を利用して、デジタル信号をアナログに変換すること無くデータのやり取りが可能になりました。これも、インターネットには電話回線が必要だという認識に繋がっているかもしれません。
アナログ回線利用では電話番号は一回線に1つですが、ISDNを利用する事で複数の電話番号の収得も可能になりました。通信速度は64kbpsが基本ですが、同時に複数回線を利用する事で128kbpsまで利用出来る様になりました。
アナログモデムの時代に比較すると格段に進歩した通信速度で、インターネットの普及に大きな役割を果たしましたが、その時代は長く続きませんでした。
ISDNの一番のウィークポイントは、プロバイダへの接続にダイヤルアップ接続を行っていたため、電話代がインターネット利用中には掛かる事にあります。
ADSL
このISDNのウィークポイントである、ダイヤルアップ接続による従量制通信料金を克服したのがADSLです。
ADSLは従来からある電話線を利用しますが、インターネット利用時にアクセスポイントにダイヤルアップ接続するのではなく、常時接続を定額料金で採用することで、今の通信環境に近い状態をいち早く実現しました。
1999年の実証実験からの動きは早く、2000年頃から一般加入者へのサービスが開始されています。
2003年末には契約者が1,000万を突破して、2006年3月には1,452万のピークへと短期間で到達しています。
この躍進の原動力になったのは、常時接続定額に加えて、速い回線速度があります。下り最大50Mbps・上り最大5Mbpsという今までに無いスピードは、ブロードバンド時代の到来と共に、今までに無いコンテンツの充実に繋がりました。
ADSLにも弱点はありました。それは、速度はあくまで理論上の最高値で、基地局から離れるほど速度は低下する特性があったことです。
そのため、利用する場所で通信品質には大きな差が有ったのも確かで、次世代の回線に主力を譲る事に時間は掛かりませんでした。
既に新規申込み受付は2016年6月に停止されていて、光回線が利用出来るエリアでは2023年1月31日にサービスが終了しました。
現在のインターネット回線
ここまで見てきたインターネット回線は、全て電話回線を利用してきました。言い換えれば、電話回線が無ければ、インターネット回線を利用出来なかった時代です。
しかし、ADSLの終了を持って、従来からある電話回線を利用したインターネットは、全て終了します。
現在のインターネット回線は、電話回線とは全く別の回線を利用しています。そのためインターネットの契約をするのに、電話回線は必要有りません。
今利用出来るインターネット回線は、電話回線ではなく、光ファイバーケーブルを使う有線の「光回線」と、無線を使う「ホームルーター」「モバイルルーター」があります。
モバイルWi-Fiルーター
(出典:楽天モバイル公式)
小さな筐体をバッテリー駆動する事が可能になっている機器で、無線を利用した回線でプロバイダに接続して、インターネットを利用します。
基本的にはWi-Fiを使って、利用端末との接続を行います。持ち運びが出来て、自宅だけではなく外出先でも利用出来ます。
全体のサイズが小さいため、必然的に電波を送受信するアンテナも小さくなり、通信速度に関しては光回線やホームルーターよりも遅くなります。
Wi-Fiの飛ぶ範疇も狭くなります。通信速度が速くないとは言え、実用上は現代の必要なスペックを満たしていて、ADSLよりも実測値では上です。
単身者なら、普段利用するインターネット回線として利用出来ます。電話回線とは一切関係なく、単独でインターネットが利用出来ます。
ホームルーター
(出典:SoftBank Air 公式)
同じく無線を利用した回線でプロバイダに接続しますが、モバイルルーターとの違いは、持ち運ぶ事が出来ない事です。バッテリー駆動ではなく、コンセントに差し込んで利用します。
筐体サイズも大きくなり、アンテナも大きくなるため、モバイルルーターと比較して回線の電波を強力に拾えるため、通信速度が概ね上がる傾向にあります。
Wi-Fiの飛ぶ範囲も、光回線出利用するWi-Fiルーターに遜色無く、有線LANのケーブルを差し込む事もできるため、通信速度が劣る事を除けば、光回線+Wi-Fiルーターに比較的近い環境を構築出来ます。
「ホームルーター」は、大手キャリア三社(ドコモ・au・ソフトバンク)から出ています。
こちらも電話回線とは一切関係なく、単独でインターネットが利用出来ます。
光回線
光回線は、光ガラス繊維で出来ている、光ファイバーケーブル使います。従来の電話回線は銅線を利用していましたが、より多くのデータを距離による毀損が出ない事が、光ファイバーケーブルの特徴です。
自宅から効率の良い光回線でプロバイダまで接続して、インターネットの世界に繋ぎます。無線方式に比べてロスが少なく、回線速度や安定感にも光回線は優れています。
長年利用してきた電話回線とは別に、全く新しい回線を敷設するのは大工事で、日本全国を網羅しているのは、NTT東西による光回線「フレッツ光」だけです。
他に敷設しているのは、従来から電柱などのインフラを持っている企業が多くなります。各地の電力会社(電線の電柱)・各地のケーブルテレビ(有線の電柱)などがありますが、いずれも限られたエリアでのサービスになっています。
光回線は従来の電話回線とは全く別に敷設されているため、電話回線の契約とは一切関係なく、単独でインターネット利用が出来ます。
現在の固定電話回線を考える
固定電話の契約者は、年々減少しています。
(出典:総務省 情報通信白書令和2年版)
通常の連絡手段には、普及した携帯電話で充分と考えるユーザーが増えている事にあります。
導入費用
固定電話を利用するのには、「施設設置負担金」と呼ばれる費用負担が必要です。
1951年当時に、装置料4,000円に加えて電話設備費負担金30,000円の費用負担は、物価を考えれば小さくない金額です。
1976年には80,000円に値上がりしています。これは、電話を利用するために必要な債権とも考えられますが、権利を返却しても返金されないので、債権とも呼べません。
発展途上の日本において、通信網を敷設する費用負担の意味合いが考えられますが、既に固定電話網は完成している今でも、36,000円ほどの施設負担金が電話を引くのには必要です。
この費用負担をしてまで、新たに固定電話設置に魅力を感じる若い世代は皆無です。
固定電話回線にメリットはあるか?
一部の自治体では、高齢者に固定電話の廃止を、積極的に働きかけているケースもあります。
固定電話の番号は、ある程度住まいのエリアが限定出来て、比較的年齢層が高い事を考えれば、振り込め詐欺のターゲットになりやすい側面が有るからです。
年齢が中年以降の場合は、個人情報を記入する場合の電話番号が、携帯番号では信用力に欠ける・恥ずかしいとの考え方もありましたが、若年層ではその発想は全く無く、全体的に薄れてきています。
信用力という意味では、固定電話にかつての神通力は失われつつありますが、ショッピングモールの中には、荷物の発送先に携帯電話の番号を受け付けないところもあり、完全には無くなっていません。(これは信用というよりも、配達の利便性の可能性が大です)
しかし、人間の心理というのは不思議なもので、個人相手の場合には全く気にならないのに、店舗や会社の連絡先が携帯電話番号になっているのは、違和感を抱かざる得ません。
これは、信用という言葉に置き換えても良いでしょう。
インターネット回線で固定電話が使える?
現在のインターネット回線利用には、電話回線の契約が必要無いことは重ねて述べてきましたが、逆にインターネット回線の中には、固定電話が利用出来るサービスがあります。
店舗
たとえば、新しくオープンする飲食店に固定電話は欲しいところですが、光回線を引くつもりがあるなら、固定電話も合わせて設置する事ができます。
電話回線は導入せずに、光回線を使って音声通話をするので、施設負担金36,000円も不要です。
基本料も安くなります。事業用固定電話の基本料金は、エリアによっても異なりますが、2,300円から3,530円程度です。「フレッツ光」を利用した「ひかり電話」なら、基本料金は550円です。
通話料も安くなります。固定電話では固定電話に電話する場合に、最大45秒で11円が掛かりますが、「ひかり電話」なら、日本全国どこの固定電話でも3分8.8円です。
事務所
「ひかり電話」なら5つの電話番号(1追加番号